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野生動物

あ い さ つ

獣医師の主な仕事は、家畜やペットの診療などですが、動物にかかわる者として、野生動物への関心も重要な事項の一つです。
   動物園の獣医師は、飼育されている野生動物の衛生管理のほかに、静岡県から委託されて「傷病野生鳥獣」の保護、診察、治療をやっていますが、ペットの動物病院でも、同じ事をボランティアでしているところもあります。それ以外、タンカーなどの事故による油汚染時など、救護のための獣医師の責務も大事です。
   このページでは、静岡県の野生動物(主として哺乳類と鳥類)に関する情報を発信していきたいと考えています。興味をもって見て頂けると幸いです。
   平成22年10月に名古屋で生物多様性条約締結国会議COP10が開催されましたが、生物多様性については、色々な情報が出ているので、それを見てもらうとして、生態的多様性の中で、侵略的外来生物問題が大きくクローズアップされていました。
   外来生物とは、本来生息しない外国の動物たちが、人為的、意図的または不可抗力的に侵入し、在来生物や農林業、人的に被害をもたらすものです。その中で政府は、2005年に「外来生物法」を制定し、その中で特定外来生物97種類を指定し、それらの飼育、輸入、移動などを制限しました。
静岡県内にも、哺乳類の特定外来生物が3種類います。アライグマ、タイワンリス、ハリネズミです。それ以外にハクビシンも外来生物です。

ハクビシン

   ハクビシンは、漢字で書くと白鼻芯。その字の通り、額から鼻にかけて白い線があることが特徴です。世界的には東南アジアから中国大陸南部に広く分布しており、食肉目 ジャコウネコ科に属する動物です。環境省は、外来生物法の策定に当たり「移入時期がはっきりとしない」として、明治以降に移入した動植物を対象とする外来生物法に基づく特定外来生物に指定していません。
   少し以前までは、日本の在来種だと言う在来説と、外国から移入されたという帰化動物説の間で、色々と議論がありましたが、現在では、外来生物だと言うことで、ほぼ決着がついています。
   ハクビシンは、頭胴長約50cm、尾長約40cm、体重2 – 3kg程度。飼い猫ほどの大きさで、オスのほうがメスよりひと回り大きく、ネコのような体つきで、暗い灰褐色で頭、手足、尾が黒いのが特徴です。夜行性で、樹洞や岩穴などを巣穴とし、人家の屋根裏なども利用します。他の日本産動物と異なり、春の繁殖以外に、秋に繁殖することも多く、1産1~3子です。雑食性で、果物、小動物、昆虫、沢蟹などなんでもよく食べます。木登りも得意で、細い枝先の果実なども被害にあいます。県内では、当初ミカンの害獣としてクローズアップされましたが、今では、モモ、ビワ、カキ、トウモロコシなど、被害を受ける農作物は多岐にわたっています。
   国内に生息しているという最初の確実な報告は昭和18年、静岡県の浜名郡知波田村(現湖西市)で捕獲された1頭であるといわれます。明治時代に毛皮用として台湾や中国などから持ち込まれた一部が、遺棄されたり逃げ出したりして野生化したとの説もあります。
   日本のハクビシンはいったいどこから持ち込まれたのでしょうか?
北海道大学の増田隆一氏によると、国内各地から採集されたハクビシンのDNAによる遺伝子解析と、台湾のハクビシンの遺伝子解析から、国内の東日本の集団(静岡県を含む)は、台湾西部の集団に由来し、西日本の集団は、台湾東部の集団に由来するといいます。つまり、日本ンハクビシンは、台湾の別々なところから、別々に渡来したということのようです。今後は、いつ渡来したのか、また台湾以外から移入があったのかなどについて、検討が必要だとのことです。
ハクビシン

クリハラリス(タイワンリス)

   タイワンリスの国内での野生化は、ヨーロッパやアメリカの公園で、人々と仲良くしているリスを見て、日本でもと思ったのでしょうか? 一部の動物園や公園での放し飼いから始ったのが原因のようです。
   県内では、浜松市では浜松城公園周辺から始まり、今では佐鳴湖周辺にまで拡大し、また伊豆半島東海岸では、河津周辺で1990年ころから確認され今では下田から伊東周辺にまで海岸沿いに広がってきています。
伊豆では、サマーオレンジなどの柑橘類の食害や樹皮剥ぎの被害が目立ち、電線や電話線の被覆が齧られる被害も多くなっています。日本固有のリスより体が大きいため、ニホンリスが駆逐される可能性も危惧されます。
安易な放し飼いが、結果的に大きな問題を引き起こしているのです。
タイワンリス

ハリネズミ

   特定外来種のハリネズミが伊東市周辺で分布を拡大させています。
伊東市に生息するハリネズミは、マンシュウハリネズミで、元々はペットとして飼われていたものが、遺棄されたり逃げられたりしたものが増えたものと思われます。
伊豆シャボテン公園にハリネズミが保護され始めたのが1995年ころからです。始めは大室山やその周辺の別荘地帯からだったのですが、その後持ち込まれる範囲は広がり、現在は伊東市内全域に広がってきているようです。
   ハリネズミは食虫目で、夜行性です。夜間やぶなどから出てきて、主に昆虫や幼虫、果実、卵などを食べます。冬は冬眠します。外敵に襲われると、丸くなって毛の変化した針でボールのようになって身を守ります。
現在、目立った被害はあまり確認されていませんが、ハリネズミは特定外来種に指定されています。ですから、見つけても、可愛いからといってペットとして飼うことはできません。
まだ広がりが限られている内に、早急な対策と対応が必要です。(文責 三宅 隆)
ハリネズミ

アライグマ

  静岡県内にアライグマがいるなんて、信じられないでしょうが、実は県内各所で確認の報告があり、年々広がる傾向にあるのです。
   アライグマは、もともと北アメリカ原産の、食肉目アライグマ科に属する中型の動物です。
      1980年代、アニメ「アライグマのラスカル」の放映により、一躍人気者になり、多くがペットとして輸入され、家庭でも飼育されるようになりました。しかし、アライグマは野生動物です。小さいときはおとなしくても、大きくなると気性が荒くなります。アライグマの名前は、食べ物を洗うようなしぐさから名前がついていますが、私は、気が荒いから「荒いグマ」だと感じています。そのため、捨てられたり、逃げられたりして、放映から10年後くらいから日本のあちこちでアライグマの野生化が確認されるようになったのです。
   県内での初記録は2003年6月、富士宮市でした。その後旧由比町、旧蒲原町で確認され、現在では、静岡市、富士市、三ヶ日町などで、野生繁殖が確認され、県内でもその分布は急速に拡大傾向にあります。
アライグマがいることによって、色々な弊害があります。
   まず、人畜共通伝染病の、狂犬病やQ熱を媒介すること。アライグマ回虫の感染の危険性。
農作物被害、建物への侵入被害(最近国宝の寺社に侵入されている報道をよく目にします)、在来動物のキツネやタヌキなどとの競合など多くの問題があります。
  対策としては、捕獲処分しかないのが現状です。兵庫県では年間2000頭、神奈川県でも年間1000頭ほどを捕獲しているようですが、一向に減る気配がないそうです。
アライグマが殺処分されるなんて可哀相と言う人もいるかもしれません。たしかに、人間によって持ち込まれたアライグマ自身に責任はありません。しかしこれだけ被害が出てくると、持ち込んだ人間の責任として、捕獲を実行しなければならないのです。
   現在、沖縄や奄美大島のハブ対策として移入されたマングースが増えて、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギの捕食者となっています。マングースのせいで、在来の希少な動物たちが絶滅の危機にあります。政府はマングース根絶を目指して捕獲に取り組んでいるのですが、困難を極めているようです。
   静岡県では、アライグマはまだ目立つような被害は報告されていませんが、アライグマは静岡県には、いてはいけない動物です。今のうちに対策を実施する必要があります。(文責 三宅 隆)
アライグマ縮小
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